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古来より、雷が落ちるときのこが良く成長するという言い伝えがある。実際に、しいたけに放電をしてみたところ、なんと本当に大きくなった!しかし、この実験は当初言い伝えの検証が目的ではなかった。この研究に至る背景には、「私たちの身の回りのものは日常的に放電している」という、さらに驚きの発見があったのだ。
地面や海面近くの水蒸気を沢山ふくむ空気によって作られた雲の中の水滴は、上昇すると急激に冷やされ、小さな氷の粒になる。この氷の粒は、成長してやがてあられや雪になり、自分自身の重さで下へ落ちていく。下降するあられや雪と、上昇する氷の粒とがこすれ合うと、大きな粒にマイナスの電荷が、小さな粒にプラスの電荷がたまり、静電気が発生する。雲の中では大きな粒ほど下にたまるため、全体で見ると上方にプラス、下方にマイナスの電荷がたまることになる。 電荷の蓄積が一定の値を超えると雷雲中あるいは雷雲間で雷放電が起きる。さらに、雷雲中の電荷と地表に誘導される反対極性の電荷の間で空気の壁をやぶって火花放電をひきおこす。これが雷だ。
乾さんはもともと企業で、電力用高電圧機器の内部や外部で発生する微小な放電を検出し、危険を回避する研究をしていた。その経験を活かし、大学では電子の分布など、よりミクロな視点から放電現象について研究を行っていた。そこで乾さんは、驚くべき発見をした。放電は、電気を放つ側から受け取る側への一方向ではなく、受ける物質の側からも起こっていたのだ。たとえば雷が落ちるとき、地面から上に向かう放電も同時に起きているということだ。しかも、金属だけではなく、木や建物からも。 さらに、蛍光灯など放電現象を起こしている周辺の物質で、やはり微小な放電が起きていることがわかってきた。乾さんは、「蛍光灯や電線など、放電現象を起こしているものはたくさんある。その周りにいる私たち自身や身近な生物からも、放電が起きているはず」と考えた。そして、このような微小な放電が生物に影響を与えうるのかどうか、実験を始めた。
実験では、床に置いたステンレスのトレイにシイタケ菌床ブロックを置き、発芽し始める時期に8万Vの放電を1回だけ行った。1週間後、放電を与えていないものの発芽は18本173gで、房の大きいものでも2cm程度。それに対し、放電を与えたものは45本306gで、房の大きいものでは10cmにもなった。明らかに出た芽の数が多くなり、いくつか房が巨大に成長していたのだ。 しかし、同じ実験を貝割れ大根に行うと、結果は逆になった。放電を与えると、なにもしていないものより生育が遅くなってしまったのだ。シイタケなどのキノコ一般は、生命の危機を感じて出芽すると言われている。そのため、放電が危機シグナルになった可能性も考えられる。この研究成果を受けて、ある電力会社では、すでに高級なキノコの増産を目指して実用化を進めているという。
シイタケや貝割れ大根の研究は、放電の研究から拡がった、数ある成果のひとつにすぎない。自然の放電現象「雷」に魅せられた乾さんの研究は、さまざまな分野に広がっている。風力発電において雷からシステムを守り、また雷が落ちた時にすばやく復旧を行うためのプロジェクトのリーダーを務めたり、風力発電そのものを研究したりもしている。 さらに最近は、昔の中国の建築様式に、落雷防御のしくみがあることなど、なんと歴史についても研究中だ。中国の神社仏閣の屋根瓦には、動物のかたちをした飾り物が付いているのがよく見られる。この飾り物には金属製の塗料が塗られ、金属でできた建物の骨格と繋がっている。それにより、雷が落ちたときに電流は動物の飾り物を通り、骨格を通じて地面へと流れ、消失する。飾り物はただのデザインではなく、避雷針の役目を持っていたのだ。この発見は、避雷に関する思想の原点が中国にあった可能性を示すとして、多くの議論を呼んでいる。 生物から物理、工学、果ては文化に至るまで幅広く研究を続けている乾さん。放電現象に魅せられた研究者のあくなき探求は分野の枠を越え、とどまるところを知らない。