株式会社リバネス運営ウェブサイトメディア開発事業部(担当:もう)|リバネスコーポレートサイト
はじめまして。リバネスの木村です。2月も中盤に入り、皆さんはどう過ごしているでしょうか?僕は大学院の博士論文を提出したばかりで、疲れ果ててノックダウン状態です。いやー長かった!!でもとうとうプロの研究者としての第一歩を踏み出します。
僕はかれこれ6年間、シアノバクテリア(ラン藻)という細菌の研究をしてきました。シアノバクテリアと言えば、生物の教科書では原生生物の紹介で登場してくる生き物。彼らは大きさが数μmの細菌で、実はそこらの海や川にいるのです。

彼らは27億年以上も前に地球上に現れて、植物の先祖様の細胞に入りこみ、光合成をする葉緑体に進化してきたと言われています。そのシアノバクテリア、僕はある意味最強の生き物だと思っています。
その理由は、ごはんを食べなくても生きていける生き物だからです。
お腹が空いた。そうだご飯を作ろう!
「あー、お腹が空いたー!」といって朝・昼・晩に、私たちはご飯を食べますよね。それは、生き物が生きていくために必要なDNAやタンパク質の材料になっている炭素(C)と窒素(N)を食べ物から吸収するためです。
この炭素栄養(グルコース)を光合成(反応式1)によって自分でつくることができる生き物が植物です。彼らは食べ物から炭素栄養を吸収しなくても、空気中の二酸化炭素を材料に、自分で作ることができます。
反応式1:光合成
6CO2(二酸化炭素)+ 12H2O → C6H12O6(グルコース) + 6H2O + 6O2
でも植物は窒素栄養を自分でつくれないので、窒素栄養がない場所では生きていくことができません。
だから人が植物を育てるところでは肥料を与えて窒素を補充しているんですね。ところが、光合成に加えて窒素固定と呼ばれる能力を使って、窒素栄養を何かから吸収しないで、自分でつくるができてしまうシアノバクテリアの仲間がいます。
窒素固定のできる生き物は、なんと大気の窒素を自分たちの栄養に使えます。空気中の窒素ガスをアンモニアに変換できるのです(反応式2)。
反応式2:窒素固定
N2(窒素)+ 8H+ + 8e- + 16 ATP → 2NH3 (アンモニア)+ H2 + 16ADP + 16 Pi
アンモニア自体は生き物にとって毒ですが、すぐに水に溶けてアンモニウムイオンとなり、窒素栄養として使うことができます。つまり、この両方ができるシアノバクテリアは、他の生き物が生き残れないような炭素栄養と窒素栄養がない場所でも生きていける、とてもたくましい生き物なのです。
でも光合成と窒素固定をやっていくためには大きな問題がありました。それは、ニトロゲナーゼと呼ばれる窒素固定を行う酵素が、酸素分子(O2)が近くにあると能力を発揮出来ないという弱点です。光合成をすると酸素分子ができてしまいます。さあ、困りました!光合成と窒素固定を同時にやるにはどうしたらいいのでしょう?
細胞分化で分業しようゼ
窒素固定ができるネンジュモという名前のシアノバクテリアがいます。ネンジュモは一個一個の細胞がまっすぐに並んだ状態で生活しています(写真1)。細胞の周りに窒素栄養が十分にある時は、全部の細胞が光合成に注力します。
しかし、窒素栄養が少ない期間がある程度続くと、約10個の細胞に1つの割合で、ヘテロシスト(異質細胞)と呼ばれる細胞を分化させるようになるのです(写真2)。

細胞分化とは、ある細胞が本来とは異なる特別な形や機能を持つために、生き物が生み出した分業の方法です。ヒトを例にとってみると、元は一種類の受精卵だったものが何種類もの細胞に分化して違う役割を持ち、それらが協調して働くことで一人のヒトが形成されていきます。
写真2の中で、矢印で指した他とは少し形の違う細胞がヘテロシストです。一度分化してしまったヘテロシストは他の細胞とは違って、分裂して増えることも元の細胞に戻ることもできません。この細胞は全く光合成を行わず、窒素固定のスペシャリストとして働きます。そして、自分は獲得した窒素源を周りの光合成をしている細胞に配る一方で、その見返りとして、自分では作れない炭素栄養をもらうのです。
現代の私達の細胞が行っているギブ・アンド・テイクの関係を、生命進化のごく初期の段階で生まれたシアノバクテリアが築いていたということにとても驚かされます。
嫌だ!細胞分化なんて面倒じゃん!
さて、酸素を生み出す光合成と、酸素があるとできない窒素固定。この二つの活動が出来るシアノバクテリアはネンジュモだけではありません。シアノセイスとよばれるシアノバクテリアは、細胞分化をせずに、一つの細胞の中で両方の活動ができるのです。では、どうやって?答えはすごく単純です。光合成をするには光が必要です。ということは、光合成ができない夜は、細胞の中で酸素が作られませんよね。つまり、日中に光合成をして、夜は窒素固定をするというように、一日という時間の中でやる仕事を分けるという仕組みを作りあげているのです。
光合成と窒素固定を行うために、細胞分化をして活動の場を分ける、活動の種類を時間で分ける、といったように生き物の種類によって戦略が違っているのがとても面白いですね。
これはシアノバクテリアの先祖様が、炭素栄養と窒素栄養がない、極めて住みにくい場所で生きていくために試行錯誤した結果なのだと、僕は想像しています。(木村聡)
何十億年も前に生まれた生き物がいろいろ工夫して賢く生きているのですから、僕たち人間ももっともっと知恵をふりしぼって生きていかなくてはいけませんね!
参考文献
Rippka, R. (1979) Generic assignments, strain histories and properties of pure cultures of cyanobacteria. J Gen Microbiol 111, 1-61.
Zhang L.C. (2008) Existence of periplasmic barriers preventing green fluorescent protein diffusion from cell to cell in the cyanobacterium Anabaena sp. strain PCC 7120. Mol Microbiol 70, 814-823